肝生という肝臓に病を抱える方におすすめできるお薬があります。
漢方中医学の考え方がベースになっている生薬製剤ですが
日本の製薬会社のオリジナル処方です。
現代医学でいう肝臓の働きが低下した状態と完全に一致するわけではありません。
肝にトラブルがあると全身に不暢がでるという点では同じですが、
中医学では肝というものを単に物理的な臓器としてだけではなく、
気や血の流れを主るものという広い概念で扱っています。
効能効果は肝機能障害、肝臓肥大、急・慢性肝炎、黄疸、胆のう炎。
OTC医薬品でここまで謳えるものは他には見たことがありません。
構成生薬は酸棗仁、山梔子、桑白皮、縮砂、大黄、橘皮、人参、車前子、
枳実、桂皮、烏梅、艾葉です。
桂皮と大黄が1、そのほかが4の割合で配合されています。
【構成生薬】
・酸棗仁(さんそうにん)
帰経は心、肝経。効能は養心安神、斂汗、益肝血
・烏梅(うばい)
帰経は肝、脾、肺、大腸経。効能は斂肺、渋腸、生津、安蛔
・艾葉(がいよう)
帰経は肝、脾、腎経。効能は温経止血、散寒止痛
・梔子(しし)
帰経は心、肺、胃、三焦経。効能は瀉火除煩、清熱利湿、涼血解毒、利胆退黄
・枳実(きじつ)
帰経は脾、胃、大腸経。効能は破気消積、化痰除痞
・橘皮(きっぴ)
帰経は脾、肺経。効能は理気、調中、燥湿、化痰
・人参(にんじん)
帰経は脾、肺経。効能は大補元気、補脾益肺、生津止渇、安神増智
・縮砂(しゅくしゃ)=砂仁
帰経は脾、胃経。効能は化湿、行気、温中、安胎
・大黄(だいおう)
帰経は脾、胃、大腸、肝、心経。効能は瀉下攻積、清熱瀉火、解毒、活血袪瘀
・車前子(しゃぜんし)
帰経は腎、肝、肺。効能は利水通淋、止瀉、清肝明目、清肺化痰
・桑白皮(そうはくひ)
帰経は肺経。瀉肺平喘、利尿消腫、※一定の降圧作用がある
・桂皮(けいひ)
帰経は心、肺、脾、膀胱経。効能は発汗解表、温経通陽
帰経とはその生薬がどの臓腑で働くかを意味しています。
ここで注目していただきたいのは、肝に帰経するものが少ないという点と
脾に帰経するものが多いという点です。
肝は血を蔵すものであるので、肝が病むと血を作る脾に過剰な負担が及んでしまいます。
その為、まずは脾を補っておかなければならないと考えます。
また、次のような理由があります。
脾を補い脾が旺盛になれば、腎を抑えることに繋がります(土剋水)。
腎気が抑えられれば水が巡らなくなります(主水)。
水が巡らなければ心の火が抑えられず心火が盛んになります(水剋火)。
盛んになった心火は肺を抑えることに繋がります(火剋金)。
そうなると肺の気が巡らなくなり、相剋関係にある肝への抑制がとれます(金剋木)。
抑制がとれた肝は旺盛になることができ、自然に病が治っていくわけです。
※これは金匱要略の臓腑経絡先後病脈証第一の第一条の内容です。
肝を治療しようという時に、
肝に帰経する生薬だけを摂るのはナンセンスであると
なんとなくご理解いただけたかと思います。
そうすれば、肝生の構成生薬の意味が見えてきたのではないでしょうか。
酸味で肝に帰経する生薬は酸棗仁と烏梅だけです。
それでも効能効果があるというのは、肝の病を肝だけに留め、
更に四臓を巡って肝を活かす構造なのですね。
しかし、金匱要略にはこのようにも書かれています。
「肝の虚にはこれで治療するが実ではこの道理は通用しない」
つまり、金匱要略の脾を補うやり方では
以下の症状も見られるような場合、通用しないという事になります。
【肝実の主な症状】
・顔が赤くなりやすく、怒りっぽい。
・頭痛やのぼせ、目の充血がある。
・強いストレスで胸の張りや喉の詰まり感がある。
・高血圧や動悸が顕著にみられる。
肝実というのは肝に気が滞っている、若しくは肝に熱がある状態です。
実はこのような状態でも使っていけるのではないかと思います。
山梔子、大黄などで肝の過剰を抑え、
橘皮、枳実で肝の気の流れを良くするんですね。
これにより、肝実にも使えるように設計されているんです。
金匱要略にはこのようにも書かれています。
「四季脾王ずれば邪を受けず。即ち之を補うこと勿れ」
春夏秋冬どの季節でも脾が旺盛であれば邪を受けない、
旺盛であるならば補ってはいけないよ、ってことですね。
ここを勘案してきちんと、余計なものがある場合は出す、
という瀉法も入れているようです。
ただし、効能効果に書かれている病に関してはまずは医療機関での診察を優先していただき、
それでも何かやってみたい、となった場合の出番のように思います。
もちろん、日頃から肝臓に負担をかけている、胃腸が弱いとなれば
ケアとして使っていくのにはよろしいと思います。